小児アトピー性皮膚炎

  1. 小児のアトピー性皮膚炎とは?
  2. 小児のアトピー性皮膚炎とアレルギー
  3. 小児のアトピー性皮膚炎の治療
    • 薬物療法
    • スキンケア
    • 悪化要因への対策
  4. 小児のアトピー性皮膚炎の注意点

1. 小児アトピー性皮膚炎とは?

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な湿疹が、よくなったり悪くなったりをくり返す疾患です。

皮膚のバリア機能が低下し、外からアレルゲンなどの刺激が入りやすい状態となるために、皮膚の乾燥や炎症が起こります。かゆみを感じる神経が皮膚の表面まで伸びてきて、かゆみを感じやすい状態も生じています。掻くことでますます症状が悪化する、悪循環に陥りやすい病気です。

生後4か月での有病率は12.8%、1歳6か月では9.8%と、多くのお子さんが悩まされる皮膚疾患です。ほとんどのアトピー性皮膚炎は乳児期から小児期に発症し、加齢とともに症状が改善、有症率は下がっていく傾向にあります。小児期のアトピー性皮膚炎が寛解しなかった一部の方が、成人型アトピー性皮膚炎に移行していくのだと考えられています。 

2. 小児のアトピー性皮膚炎とアレルギー

従来は、食物アレルギーが原因となって乳児期のアトピー性皮膚炎が発症すると考えられていました。

しかし最近になって、先にアトピー性皮膚炎があると、食物アレルギーを発症しやすくなる傾向があることが分かりました。アトピー性皮膚炎が重症であればあるほど、食物アレルギーの発症リスクも高くなります。

また、小児期にアトピー性皮膚炎を起点とし、食物アレルギーのほか、喘息やアレルギー性鼻炎といった呼吸器系のアレルギーを次々と発症することがあります。これは行進曲に例えて、「アレルギー・マーチ」と呼ばれる状態です。アトピー性皮膚炎は早期に発症するほど、症状が長く続くほど、そして重症なほど、アレルギー・マーチにつながる可能性が高いと考えられています。

アトピー性皮膚炎を発症した場合は、他のアレルギー疾患の発症を予防するためにも、早期にしっかりと治療を行って皮膚の健康を保つことが重要です。

3. 小児のアトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療の目標は、症状がなくなるか軽い状態となり、日常生活に支障がなく、薬もあまり必要としない状態を維持することです。ここまで改善しない場合でも、日常生活に影響する急な悪化を起こさないような、安定した状態を目指します。

治療にあたっては薬物療法、スキンケア、悪化要因への対策の3点が重要です。

3-1. 薬物療法

まずはステロイド外用薬や免疫抑制外用薬を使い、皮膚の炎症を抑えます。

ステロイド外用薬には効果の強さの違いがあり、塗る部位や症状の重症度に応じて薬剤を選択します。0歳から使用でき、年齢制限はありません。

ステロイド外用薬を塗る際には、十分な量を使うことが必要です。一般的に、大人の人差し指の先から第一関節までの長さでチューブから出した外用薬を、大人の手のひら二枚分の範囲に塗るのが適切な量だといわれています。ローションの場合は、一円玉大の量を同じ範囲に塗るのが適量とされています。

小児に対しての免疫抑制外用薬には、プロトピック小児用軟膏0.03%(タクロリムス水和物)や、コレクチム軟膏0.25%(デルゴシチニブ)があります。双方とも使えるのは2~15歳で、16歳以上の場合は濃度の高い成人用の製剤を使います。2022年6月には、新たにモイゼルト軟膏(ジファミラスト)が発売されました。2~14歳の小児には原則としてモイゼルト軟膏0.3%を使用しますが、症状に応じて濃度の高いモイゼルト軟膏1%を使用することもできます。

アトピー性皮膚炎の痒みに対しては、抗ヒスタミン薬の内服薬や外用薬を併用して、掻いてしまうことを防いでいきます。内服にはシロップや粉薬状のドライシロップ、細粒などの剤形のものも多くあり、年齢に応じて飲みやすい薬品を選択します。

炎症がおさまった後は、皮膚の乾燥に対して保湿外用薬を使用し、安定した状態を維持していきます。この場合はヒルドイドソフト軟膏/クリーム/ローション(ヘパリン類似物質含有製剤)などを使用します。

皮膚症状が何度もぶり返して治らない場合は、炎症を抑えた後の保湿外用薬の使用に並行して、ステロイド外用薬や免疫抑制外用薬を定期的に塗布する方法を取ることもあります。これをプロアクティブ療法といい、医師の指示のもと行っていきます。

上記の治療でも改善が不十分な場合、12歳以上の方には免疫抑制内服薬のリンヴォック錠(ウパダシチニブ)が使用できる場合があります。服用の検討にあたり、採血と胸部X線検査を行います。

湿疹が広がって学校に行けない、痒みで夜も寝られないなど、日常生活に支障が出るような重症例の場合には、入院治療を行い、治療とともに症状をコントロールするための知識や方法を学びます。

3-2. スキンケア

アトピー性皮膚炎の際には、皮膚のバリア機能や保湿力が低下しているため、保湿外用薬の使用が大切になります。痒みや湿疹がみられる部位だけでなく、皮膚が正常に見える部位も乾燥状態となっているため、全身に保湿外用薬を使用するのが望ましいです。炎症の改善後だけではなく、普段も使用を続けていくことで、良い状態を維持することができます。

皮脂汚れや汗、細菌の付着がアトピー性皮膚炎を悪化させるため、皮膚の清潔を保つことも必要です。入浴やシャワーの際には、皮膚バリア機能回復に適した温度とされる38~40℃のお湯を使用しましょう。42℃以上の高温では、痒みを悪化させたり、皮脂などの保湿成分が失われてしまいます。石鹸やボディーソープには、低刺激で添加物が少ないもの、使用後の乾燥が少ないものが適しています。洗い残しのないように、しっかりと洗い流しましょう。入浴後には保湿外用薬を使い、しっかりと保湿を行っていきます。

3-3. 悪化要因への対策

アトピー性皮膚炎を悪化させる要因には、乾燥、発汗、ダニやホコリなどの吸入アレルゲン、ストレス、食物(乳幼児の一部)などの複数の要因があります。

発汗を避ける必要はありませんが、皮膚表面に汗を残さない汗対策が効果的です。通気性の良い服を選んだり、汗で濡れた服をこまめに着替える、濡れタオルで拭くなどの方法を行います。もちろん、こまめな入浴やシャワーも有効です。

室内の清掃や布団の洗濯を行い、ハウスダストやダニを除去しましょう。エアコンのフィルター掃除もまめに行います。

皮膚を掻き壊して症状が悪化することを避けるため、爪は短くしておきます。

4. 小児のアトピー性皮膚炎の注意点

乳幼児の場合は、保護者が主体となって薬物治療やスキンケアを行うこととなります。年齢が上がった小児期では、お子さん本人が症状を把握し、正しい薬の使い方やスキンケアの方法を身につけることが大切になってきます。どんな効果があるのかやさしい言葉で説明する、保護者と一緒に自分でも薬を塗ってみるなど、家族とコミュニケーションを取りながら、前向きに治療に取り組めるようにしていきましょう。

小児期のアトピー性皮膚炎では、見た目を気にして消極的になってしまったり、からかいの対象になってしまうケースもあります。ストレスは症状を悪化させますので、精神面のフォローも重要です。

幼稚園や保育園、学校などに、汗や乾燥の対策への協力をお願いする場合もあるかと思います。説明の際に役立つものとして「アレルギー疾患生活管理指導表」という、治療内容や重症度、学校での配慮事項などを記入する書類があります。必要な場合にはご相談ください。

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