脂漏性角化症

  1. 脂漏性角化症とは?
  2. 脂漏性角化症の原因
  3. 脂漏性角化症の診断
  4. 脂漏性角化症に似た疾患
  5. 脂漏性角化症の治療
  6. 脂漏性角化症の予防法・注意点

1. 脂漏性角化症とは?

脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)は、皮膚の表面に盛り上がりのある、茶色や黒色のできものができる疾患です。手のひらや足の裏以外の場所全てに発生しますが、特に顔、頭部、手の甲や腕などに多くあらわれます。

できものの色調や大きさ、形などは人によって異なります。色合いは通常の皮膚に近いものから黒色のものまであり、大きさは数ミリメートルから2~3センチメートルに及びます。ごくわずかに盛り上がった程度のものから、しこりとして突出するものまであります。痛みを感じることはありませんが、痒みを伴うケースもあります。

いわゆる「シミ」と呼ばれている皮膚症状に見た目が似ている場合もありますが、シミの着色部分は平らになっているので、皮膚の盛り上がりを確認することで脂漏性角化症だと判別ができます。

脂漏性角化症は中年以降に生じることが多いため、「老人性疣贅(ろうじんせいゆうぜい)」もしくは「老人性いぼ」とも呼ばれます。ただし、体質によっては20代の方にできることも珍しくはありません。

それ自体が健康に害を及ぼす病気ではないのですが、悪性の皮膚疾患との区別が難しいケースもあり、必要に応じて医療機関での診断が必要になります。見た目への影響が気になる場合には、さまざまな方法で治療することもできます。

注意すべき状態としては、脂漏性角化症が数ヶ月のうちに、痒みをともなって体のあちこちに大量にできる場合があります。これは「レーザー・トレラ徴候」と呼ばれます。

レーザー・トレラ徴候には、内臓のがんが合併しているケースが多いです。こういった症状がみられた場合は、すみやかに医療機関に相談してください。

2. 脂漏性角化症の原因

脂漏性角化症は、年齢を重ねるごとにあらわれやすくなります。また、原因には紫外線も大きく影響します。このため脂漏性角化症は、顔や手の甲、腕などといった日光が当たる部位にできやすい傾向があります。

紫外線を浴びると、肌表皮の基底層にあるメラノサイトで黒色メラニン色素が生成されます。この黒色メラニンを含む表皮細胞がバリアとなり、紫外線による皮膚ダメージを防いでいるのです。やがて古くなった黒色メラニンを含む細胞は、垢や古い角質として剥がれ落ちます。

しかし、加齢によって肌の新陳代謝の機能が衰えたり、長年紫外線を浴びることによって、排除しきれないメラニン色素が蓄積します。これが、いわゆる「シミ」の一種である老人性色素斑(ろうじんせいしきそはん)のほか、脂漏性角化症の原因ともなることが分かっています。老人性色素斑が盛り上がり、脂漏性角化症に発展することもあります。

脂漏性角化症は「いぼ」の仲間に分類されますが、多くのいぼの原因となっているウイルス感染は発症に関与しません。

3. 脂漏性角化症の診断

脂漏性角化症は、見た目の特徴のほかにダーモスコピー検査を行うことで診断できます。ダーモスコピー検査では、ダーモスコープという10倍程度の拡大鏡を使って皮膚の表面を観察します。

脂漏性角化症であらわれるできものの形や大きさはさまざまですが、皮膚の着色部が盛り上がり、他の皮膚との境界がはっきりしている特徴があります。盛り上がった部分の表面はざらざらしています。

似た症状の悪性の皮膚疾患との鑑別が難しい場合には、皮膚組織を採取して生検を行います。

4. 脂漏性角化症に似た疾患

 脂漏性角化症と似た皮膚症状には、老人性色素斑(シミの一種)、良性腫瘍であるホクロといったものもあります。

 注意すべきなのは、ごく早期の皮膚がんである日光角化症や、有刺細胞がん、基底細胞がん、悪性黒色腫(メラノーマ)といった皮膚がんとの鑑別です。

5. 脂漏性角化症の治療

脂漏性角化症そのものは、良性疾患です。そのまま経過観察とする場合もありますが、患者さまの希望がある場合、見た目の改善を目的として治療を行うこともできます。

選択肢としては凍結療法、レーザー治療、外科的療法があります。

5-1. 凍結療法

液体窒素を用いて病変部を凍結させ、1~2週間程度で剥がれ落ちるのを期待する方法です。通常、同じ場所に数回の治療が必要になります。

保険診療で行うことができます。

無麻酔で行うことができますが、液体窒素による強い冷刺激があり、ヒリヒリした痛みを伴います。施行後には一時的に、炎症後色素沈着と呼ばれるシミがあらわれることが多いです。この色素沈着に対しては、患部を光に当てないようにして過ごしたり、シミに対する外用薬を用いて対応します。

5-2. 炭酸ガスレーザー治療

炭酸ガスレーザーは、水に吸収されやすい長い波長帯の光を照射できるレーザーです。このため、患部に当てるとその細胞内の水分がレーザーを吸収し、脂漏性角化症が生じている組織を蒸散させます。

治療ができるのは設備を持っている皮膚科に限られ、自費診療で行う形となります。注射による局所麻酔を行ったのちに、レーザー照射を行います。

処置の仕方によって傷跡(瘢痕)が残る可能性がありますので、治療の際にはよく説明を聞いたうえで判断してください。

メリットとしては1回の照射で除去ができること、患部を削る深さの調節ができるためきめ細かい治療ができること、液体窒素による凍結療法より炎症後色素沈着が起こりにくい、起こった場合も軽く済むことが挙げられます。

5-3. 外科的療法

外科的療法には、電気メスを使った電気焼灼治療や、外科手術による切除術があります。この治療は保険診療で行えることが多いです。

電気焼灼治療では、局所麻酔を行ったのちに医師が電気メスを用いて患部の表皮を薄く削り取ります。これはホクロ除去などにも使用されている方法です。

悪性の皮膚疾患との鑑別が必要な場合は、液体窒素やレーザー、電気焼灼治療を行ってしまうと正しい診断ができません。そのため、外科的手術を行って組織生検をする場合があります。また、脂漏性角化症の患部が大きく、他の治療法では対応が難しい場合も外科手術を行います。局所麻酔を行ったのちメスで患部を切除します。切除部位の縫合が必要な場合は、傷跡が残ることがあります。

6. 脂漏性角化症の予防法・注意点

発症に紫外線が関わっていますので、日焼け止めや日傘、帽子などを使用して紫外線を避けることが予防に有効です。

また、皮膚のバリア機能を保つことで紫外線の影響は抑えられます。皮膚の保湿を行ったり、食事・運動・睡眠といった生活習慣を整えることが重要です。メラニンの生成を防ぐ美白化粧品の使用や、肌を整えるビタミンC、ビタミンEなどの栄養素を食事やサプリメントで接種するのも効果的です。

脂漏性角化症が短期間のうちに大量にできる「レーザー・トレラ徴候」がみられた場合は、内臓のがんを合併しているケースがありますので、すみやかに医療機関に相談してください。日ごろから、お風呂などで自分の体の皮膚の様子をチェックする習慣をつけておきましょう。